古美術・骨董の世界では「古いものほど価値が高い」傾向にある。つまり、今この時代に売るより10年後20年後に売った方が高く買い取ってもらえるはずだ。そういう認識は間違っているとは言い切れませんが、実は悪戯に『価値を下げているだけ』という残念な事例が存在します。箪笥の奥深くや物置の隅に掛け軸を保管している貴方!この記事を読んだ後すぐに可哀想な掛け軸を助け出してあげてください。
結論。掛け軸の管理は難しい。
まず結論からお伝えすると、掛け軸は他の多くの古美術品・骨董品と比べて管理が難しい部類だと言えます。陶磁器の茶碗、茶入、香炉、花入などは簡単に劣化する心配がなく、余程ひどい環境でなければ大きく価値が下がることはありません。また、刀剣や鉄瓶、仏像などは錆という天敵がいますがメンテナンスの手間と頻度の面でまだ楽な方でしょう。
なぜなら、絹も紙も湿気に弱く簡単にカビが生えてしまうから
これが掛け軸を長年放置した結果ダメにしてしまう原因の1位です。書画は絹もしくは紙に描かれており、表具に糊付けされて『掛け軸』という形態になっています。そんなものをメンテナンスする事も保管に気を使う事もなく湿気の多い押入れや日当たりの悪い物置に何年何十年と放置したらどうなるか…答えは『カビだらけ』です。一度こうなってしまうとクリーニングする事は容易ではなく、せっかく価値の高い古美術品だったものでも買取額が大幅に下がってしまいます。
掛けっぱなしにしていると日焼けしてしまう
では常に壁に掛けておけばカビが生えないか?という話にもなりますが、それは別のリスクを生じさせます。それは『日焼け』と『乾燥』です。せっかくの名画が色褪せてしまったり、風化してパリパリと割れてしまう原因になってしまいます。
さらには巻いたままの長期保管で折れてしまう
カビが生えず乾燥もさせない絶妙な湿度管理ができていれば安心…ではありません。掛け軸は巻いて(丸めて)保管しますので、同じ形状のまま長期間放置してしまうと痛んでしまいます。丸まった癖を直すだけなら難しく無いのでは?と思われがちですが、掛け軸は絹(もしくは紙)を和紙と裂地に糊付けしています。20年しっかり丸められていた掛け軸を開く瞬間を想像してみてください。無理やり伸ばした瞬間「パリパリ」と音を立て、水平方向に何本もの亀裂が入っていくイメージが湧いてくるかと思います。言うまでもありませんが、美術品としての価値が下がってしまう原因になってしまいます。
高く売れるよう保管に気をつける?本当にできますか?
あなたが古美術品・骨董品を愛でる趣味をお持ちなら、誰に言われるまでもなく大事なコレクションを定期的にメンテナンスする事を楽しんでいるでしょう。ところが、掛け軸になんて興味はなく「昔から家にあっただけ」「本当に売れるのかわからない」という立場では手間をかける気にもならない事でしょう。何せ湿気に弱く乾燥にも弱い。日焼けさせても丸めっぱなしでも駄目。掛けていても汚してしまうかもしれないし、扱い方もわからない。そもそも掛け軸に興味がなければ長期間放置してしまうのも無理もない話です。
高く売れるうちに、大切にしてくれる環境に譲ってしまいましょう
掛け軸の歴史は古く、古来中国から伝わり日本では飛鳥時代や平安時代から様々な掛け軸が作られ、近代では庶民にも愛されてきました。そのため、あなたの物置の掛け軸をこれから20年30年と寝かせても価値が急騰する保証はどこにもありません。ところが、保存状態が悪ければ価値が下がる可能性はとても高いのです。
面倒なメンテナンスをも楽しんでいる収集家さんでもない限り、掛け軸のコンディションが少しでも悪くならない内に売却を検討してみることをお勧めします。